ISSUE03

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#sports

2019/7/09

世界で躍動し日本を啓蒙する。
西岡良仁が革新する
プロテニスプレイヤーの価値。

プロテニスプレイヤー・西岡良仁

「自分は期待されて来た選手じゃない」――。そう語るプロテニスプレイヤー・西岡良仁は、周囲の評価をよそに、多くの勝利を積み重ねてきた。23歳になった現在、世界ランキングは日本人男子としては錦織圭に次ぐ68位(2019年6月10日現在。自己最高位58位)。名実ともに、現代の日本を代表するテニスプレイヤーになった。また、現役選手として活躍する傍ら、YouTubeチャンネルを開設しトレーニング方法・対談など、プロならではの動画をアップしたり、「地域活性化プロジェクト」では茨城・三重でテニスイベントを主催したりと、オフコートでもテニスの認知度向上に尽力している。

世界を舞台に戦うことが当たり前の毎日。若くして日本を飛び出た彼は、日々何を想い、その先にどんな未来を描くのか? フレンチオープン出場直前、2ヶ月に渡るヨーロッパツアーの最後を締めくくる大会前に、パリ現地で取材を行った。

世界各地を転々とする休まらない日々

フレンチオープン初戦前の貴重なお時間で取材に応じていただきありがとうございます。今回のヨーロッパ遠征のスケジュールをTwitterで追っていて驚いたのですが、ほぼヨーロッパ横断じゃないかというくらい毎週都市を移動していますよね。

今参加しているクレーシーズン※は、4月のバルセロナからはじまって、今回のフレンチオープンが最後。2ヶ月ほどヨーロッパにいますが、その間も各地を転々としました。今回、僕が滞在したのは、スペイン、ポルトガル、イタリア、スイス、フランス。グランドスラム※は長いのでパリには2週間ほどいられますが、通常のツアーの場合は、基本的に各都市での滞在は1週間程度です。

※フレンチオープン前の4月から6月上旬にクレー(赤い土)コートで行われる大会群を指す。
※テニス大会のうち、もっとも権威がある4大大会の総称。全仏(フレンチオープン)に加え、全英、全米、全豪がある。

西岡良仁 | YOSHIHITO NISHIOKA
ミキハウス所属。1995年9月27日生まれ。三重県津市出身。世界ランキング自己最高位はシングルス58位。4歳のときニックインドアテニスカレッジでテニスを始める。2013年、メキシコでのフューチャーズでプロ大会初優勝。2014年プロに転向、同年9月仁川アジア大会で日本人40年ぶりの優勝。2015年、全米オープン1回戦でグランドスラム本戦初勝利。2018年、深圳オープンでATPツアー大会初優勝。2015年~2019年、デビスカップ日本代表メンバー。

コンディションを整えられるかどうかも実力ということでしょうか?

そうですね、条件は他の選手も同じですので、転戦への耐性でふるいをかけられている部分はあると思います。というのも、ジュニアやフューチャーズ※時代のほうがずっと過酷です。日本の駆け出しの選手は多くの場合、東南アジア・中東地域の大会を回ります。衛生的にはまだまだな場所で、食事の管理や健康管理が中々難しい中で実績を積んでいくのはかなりの適応能力が必要です。このレベルの選手の多くは資金面も潤沢ではなく、節約しながらツアーを回るので、心身の負担は小さくありません。

※男子プロテニスの大会区分。ITF(国際テニス連盟)が主催する大会。プロカテゴリーの大会区分は、ITFフューチャーズ・ATPチャレンジャー・ATPツアー・ATPマスターズ・グランドスラムの順にグレードがあがる(当時の大会区分で記載)。予選突破や勝利に対して、大会区分に応じたポイントが与えられる。上位大会では、保持ポイントが多い選手から出場資格が得られるため、各選手はポイント獲得に励む。

なぜアジア地域を中心に回るのですか?

上位の大会に出場するためのポイントを稼ぎやすいからです。強豪選手はこれらの地域の大会には出てきませんし、大会数も多いですから。ただ、そうした地域でポイントを積み上げて、実力に見合わないランクを得ても、大きな大会に出るととたんに勝てなくなります。やはり、テニスが強い国の選手はヨーロッパ周辺・アメリカ/南米周辺の大会に多く出場します。そういう理由もあって、僕は東南アジア周辺の大会をコーチから禁止されていて、アメリカをメインにカリブ地域の大会に出ていたくらいです。いま考えると、若い時にレベルの高い地域で揉まれた経験が、自分の実力を押し上げてくれたと思っています。

期待されていなくても、負ける気はしなかった

世界ランキングでは錦織選手に次ぐ68位(自己最高位は58位)にランクインされている西岡選手ですが、ジュニア時代の評価は芳しくなかったとか?

(公財)盛田正明テニスファンド※の支援を受けて15歳で渡米し、18歳までIMGアカデミー※でトレーニングしました。でも最初から期待されていたわけではなく、当時はあまり評価が高くありませんでしたね。ほとんどのコーチからは、プロになっても世界ランキング150位以上には届かないだろうと言われていました。テニスプレイヤーとしては身長が低い※ことや、ほかにもっと期待の選手がいたことなどが理由でした。実際、体格や技術が僕より優れた人はたくさんいたと自分でも思っています。

でも、当時期待されていた選手がいま燻っていて、逆に僕はコーチ達に忠告された150位よりも上のランクにいます。

※ソニー本社副社長やソニー生命保険社長などを歴任した実業家の盛田正明が設立した、有望な若手テニス選手の育成のための基金。
※アメリカにある世界的に有名な全寮制のスポーツトレーニング施設。創設者がテニスコーチだったこともあり、世界最高峰のテニス教育施設として知られる。錦織圭選手もかつて在籍した。
※西岡選手の身長は171cm。世界ランキング1位のジョコビッチ選手は188cmをはじめ、大型化するテニスプレイヤーのなかでは小柄。

評価を跳ねのけ、いま活躍できているのにはどんな理由があると思いますか?

負けん気の強さにつきます。根性論に聞こえがちですが、そうではなく、どうやったら勝てるのかを考え尽くすということです。考えたことを、トレーニングでも、私生活でも、もちろん試合のコート上でも徹底しています。 プレースタイルも、格好のいいテニスをやるつもりはなくて、とにかく粘って、駆け引きのなかで相手の嫌がることをやっていく。泥臭くても「勝てるテニス」にこだわっています。

きれいにまとまっていても、世界では意味がない

日本のジュニア世代をみると「勝てるテニス」へのこだわりが薄いと感じますか?

「勝てるテニス」よりも、コーチの指導に忠実な「きれいなテニス」する選手が多いなという印象があります。先日も日本のジュニアの試合を観たのですが、同じ年齢のころの自分よりも圧倒的に「技術がある」選手はたくさんいます。ただ同時に、試合をしたら当時の自分が勝つだろうなとも感じました。

西岡選手は、コーチの指導に従うだけではなく、自分で考えたと。

子どもの頃にテニスを教えてくれた父の指導法から受けた影響が大きいかもしれません。基本的に僕の自由にやらせてくれて、怒られた記憶は、足を止めてしまった時や感情的になってラケットを投げた時くらいしかありません。そういう環境だったこともあって、小さい頃から自分で考えるくせが付いたのだと思います。相手が格上だとしても、どうにかして勝ちたい性格なので、とにかく考えてプレーしていました。そもそも自分で考えることが好きでしたしね。周りの意見を突っぱねてでも、自分の考える「勝てるテニス」にこだわってきました。

エゴイスティックだと言われるかもしれませんが、自分の考えが一番だと心から信じています。ツアーを回っていると、日本では当たり前のように守っているルールやマナーがないがしろにされていることがよくあります。おかしなクレームをつけてくる運営・選手も少なくありません。そんなとき、自分の考えをしっかり主張する力が必要です。萎縮してしまう日本人選手が多い中で、僕はしっかり「おかしいことはおかしい」「自分はこうしたい」と声を上げます。

そのかわり、全部自己責任です。主張して結果が良くなることもあればダメになることもありますが、すべて自分の選択です。人からのアドバイスの受け止め方も同じですね。受け入れるのも受け入れないのも自分次第なので、受け入れて成功すれば自分の手柄、ダメになったとしても自分の責任だと考えるようにしています。僕の場合、この精神を貫き、磨き続けてきたことが今の成績につながっていると思います。

日本の若手選手の育成という観点で、コーチとの関係以外に気になっている点はありますか?

海外に出る年齢の遅さは気になりますね。日本のジュニア世代の多くは、年齢のカテゴリー通りにまずジュニアの大会に出場して、18歳になってやっと下部大会であるフィーチャーズやチャレンジャーズに挑戦していきます。このプロセスだと、大きな大会に出られるようになるのに時間がかかります。ジュニアの大会でいくら優秀な成績を残しても、ジュニアランキングでのポイントにしかなりませんから。

世界的には、25歳以下の選手が10位以内に3名もランクインされるなど、非常に若い世代が活躍しています。彼らのような選手を生むには、若くからプロカテゴリーに出場するのが良いということでしょうか?

若くしてグランドスラム本戦を目指すなら、ジュニアに専念して優秀な戦績を残すことはあまり意味がないと感じています。僕はジュニアの試合には積極的に出なかったので、世界のジュニアランキングで一桁台になるほどの華々しい戦績はありません。でもそのかわり、フューチャーズでは15歳で決勝進出して、17歳で優勝することができました。

もちろん、早くはじめたからと言って結果が出るとは限らないですよ。僕もさらに上のカテゴリーに専念できるようになるまで3年かかりました。それでも世界の上位を目指すなら、レベルの高い大会に早くから挑戦するしかないと思います。

テニスは、日本で過小評価されている

怪我をしてツアーから一時的に離脱した2017年に始めたYouTubeで、西岡さんは「テニスYouTuber」の先駆的存在になりました。また地方活性化プロジェクトや選手会理事などオフコートでも活躍していますが、幅広く活動するのはどうしてですか?

怪我をした時に、自分やテニスを第三者的にみて考える時間ができました。当時テニス以外の友人も少なかったので、積極的にスタートアップの経営者やアーティストなど他業種の方々ともお会いし、自分の知見を広げました。

その時に考えたことの1つが、国内でのテニスの地位をもっと向上できないかなということでした。テニスは世界的には相当なメジャースポーツで、主要大会の優勝賞金はスポーツの中でも高いくらいです。でも日本では、4大大会すら地上波では中継されません。圭くん(錦織選手)や大阪選手の試合がやっとスポーツニュースで扱われるくらいで、それ以外の選手はほとんど注目されません。あまり知られていませんが、4大大会の本戦は1回戦に出るだけで数百万円の賞金が出るくらいで、他国ではもっと注目が集まります。

そうした危機感のなかではじめられたのがYouTubeでした。

とにかく何か話題をつくろうという考えでした。接点を増やして、興味を持ってくれる人の母数を増やしたくて。そもそものテニスというスポーツの認知度向上と理解促進のために、プロ選手のありのままの姿を伝えることを目的に、YouTubeチャンネルを開設しました。動画で収益を上げることにはあまり執着していません。それよりもテニス動画を観る人がいると実証することで、同じように動画を投稿してくれる人が出てきてほしいなという考えが強くありました。今では僕以外にもテニスチャンネルを開設する方がたくさん出てきていて、少しは貢献できたのかなと思っています。

地方でのテニスイベントの主催は、どういった想いで行われているのでしょうか?

根本はYouTubeと同じで、テニス人気を盛り上げたいからです。人気スポーツ、野球やサッカーの場合、地方の少年少女が、プロスポーツ選手と接する機会がけっこうありますよね。そこで選手に憧れて、ますますそのスポーツが好きになるという良い循環があると思います。でも、テニスはそういう機会があまりなくて。僕自身、三重県出身で子供のころにプロ選手と会う機会はほとんどありませんでした。だから、地方のテニス少年、テニス少女に憧れの存在をつくれたらと思ってイベントを行っています。

父は地元でテニスクラブを運営していて、今でも現役ですが、ジュニアの大会参加者が年々減っていると嘆いています。東京などの大都市でイベントをしたほうが、大きな規模でやれることは分かっていますが、僕らがやらなくてもプロに会える機会は他にたくさんありますから。僕らは、他のプロが行かなそうな地方にしか行かないと決めてやっています。

何かを手に入れるためには、まず先に投資する

テニス人気の向上は、すぐには結果が出づらい取り組みだと思いますが、焦りや徒労感はありませんか?

あまりないですね。もともと、投資的な考え方というか、何かを費やさないと何かを得られないことや、それが成果につながるまでに時間がかかることは当たり前だと思って生きてきました。

それを学んだきっかけの1つが、怪我前後の体作りです。食事をするにしてもプロになりたての今よりもお金のない頃は、正直あまり食事に注意しているとはいえない状態でした。でも怪我をして、テニスをするどころか、走ることすら半年くらいできない状態になったことで、考え方が変わりました。体が自分の資本なので、ケアにも投資しないといけないなと気付いたんです。そこから、トレーナーさんと栄養士さんについてもらい、身体をつくるという観点で両者で連携して生活を改善しました。安い金額ではないですが高いレベルで長く戦うためには、必要な投資だと思っています。

4大大会だってそうですよね。最初からバリューや権威があったわけじゃなく、賞金額が大きいから良い選手がこぞって出場したわけです。僕自身も、テニスが好きというのは前提にありますが、お金を稼ぐためという側面だってもちろんあります。まず自分が注力したい分野やことに資金や時間を投資することで、可能性が広がり、更に大きなことを形にすることができると考えています。

オフコートでのテニス人気向上のための活動は「投資」だと?

そうですね。僕の周りには家族にしろ、友人にしろ、お世話になった方にしろ、テニスに関わる人たちがたくさんいます。テニス人気が高まれば、テニススクールに通う人も増えます。テニス人口が増えれば、テニス用品を扱う企業も潤うし、そうすればこれまでスポンサーが付かなかった選手もスポンサードを受けられるかもしれない。

結果として、僕の行動にレバレッジがかかり、テニス業界全体の向上に寄与できると思っています。僕の経験や、大会で稼がせていただいたお金の一部を、そのための投資に使うのは意義があることだと思っています。現役のプロテニスプレイヤーの立場で誰もやってこなかった活動を先駆的にやることに意味があるので、今後も模索しながら、テニス市場を切り開き大きくしていきたいです。

最後に、プロプレイヤーとしての時間もまだまだ続きます。プレイヤーとしての目標を聞かせてください。

世界ランキングで1位になるような選手は、技術やセンスが優れているのはもちろんですが、長く過酷なシーズンのなかで調子を落とさない強靭なフィジカルがあります。また身長が高いなど身体的なアドバンテージもあります。彼ら以上の戦いをコンスタントに続けていけるかと言うと、僕には難しいかもしれません。

ただ、一戦一戦にフォーカスすれば勝てない相手だとは思っていません。1度グランドスラムを獲ることならできると思っています。どんな大会も、誰かが優勝します。その誰かに自分がなることを、ずっと思い描いてきました。それが僕のゴールですね。

テキスト: 田中康紘 | 撮影:伊佐ゆかり | インタビュー・編集:脇慶太朗

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