ISSUE02

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#start up

2019/7/08

起業としてのVC。
最年少ベンチャーキャピタリストが描くスタートアップ・エコシステムの未来図。

ベンチャーキャピタリスト・上杉修平

令和も勢いが止まらぬ、若き起業家たちの快進撃。学生起業はもはや特別ではなく、タイミーの小川嶺氏のように20代前半で億単位の調達を果たすスタートアップCEOも続々と誕生している。こうした華々しい調達劇には、もうひとつの主役が存在する。現在のスタートアップ・エコシステムの繁栄は、VC(ベンチャーキャピタル)の成長なしには語れない。VCファンドによる国内投資は過去5年で件数・金額ともに倍増しており、2018年だけで約50ものVCファンドが新たに設立されている。

まさに激変期にあるVCマーケットに、ひときわ輝きを放つベンチャーキャピタリストがいる。慶應義塾大学に在籍しながら、弱冠二十歳でVCファンドを設立、代表パートナーを務める上杉 修平。日本最年少のベンチャーキャピタリストに、日本のVCと起業家が向き合うべき課題と未来を聞いた。

上杉さんは2018年12月に20歳でVCファンド「Upstart Ventures 」を立ち上げ、代表パートナーに就任しました。現役大学生、かつ国内最年少のベンチャーキャピタリストとして注目を集めています。

世界的には、20代の学生がファンドマネージャーを務めることは決して特別なことではありません。英国では20代と40代の二人が共同でVCファンドを立ち上げた例もありますし、スタートアップメディア「TechCrunch」の共同編集長がベンチャーキャピタリストに転身した例もあります。このように諸外国では、VCの生態系は非常に多様です。

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上杉 修平 | SHUHEI UESUGI
1998年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部入学後、2017年にCandleの新規事業部にてメディア事業の立ち上げを担当。 また、 株式会社ONENOVA (代表取締役 高山泰歌)、 株式会社タイミー (代表取締役 小川嶺)や株式会社PoliPoli (代表取締役 伊藤和真)などを輩出した慶應義塾大学のアクセラレートプログラムKBCの運営、 1997年世代から1999年世代の起業家・インターン生200名程度を集客した97-99ミートアップの主催など、同世代の強いネットワークを有する。 
2018年6月にSevenwoods Investmentにジョイン。 アソシエイトとしてファンド組成事務、 スタートアップに関するリサーチやデューデリジェンス、 投資先の経営支援から投資実行などに携わってきた。

VCのエコシステムは、もっと多様であるべきだ

世界と比較すると、日本はVCのバックボーンが画一的な印象ですね。

そこには日本のVCファンドが抱える構造上の問題があります。既存のファンドは、組織の上が詰まっているのです。執行権限を持つパートナーになるためには、10年〜20年をかけて組織で上り詰めるか、金融や経営の知見をもって独立するかを選ばなければなりません。組織で下から突き上げるにも時間がかかるし、経験を積んで独立するのも時間がかかります。

日本のVCに多様性が乏しいのは、「下積み文化」が要因にあると。海外では珍しくない事例とはいえ、上杉さんは30代、40代のファンドマネージャーと肩を並べることに不安はありませんでしたか。

笠井レオの存在が大きかったです。彼は僕の独立元で、現在も所属している「Sevenwoods Investment」の代表パートナーを務めています。僕は高校2年生で笠井と出会い、彼をベンチマークにしてきました。在学中にVCとして独立したいと思っていましたし、自分が彼に続くことで、日本のVCの多様性を育め、またそれがスタートアップの多様性に繋がり、多様なロールモデルが実現される社会に繋がるのではないかという気概もありました。

それに、VCとしての成果は経験にだけ依存するわけではないことも肌で感じていました。笠井が22歳(当時の国内最年少)でファンドを立ち上げた時に同じ問いを投げかけられていましたが、蓋を開けてみれば非常にパフォーマンスが高かったのです。笠井との信頼関係や今までのインターン経験ありきですが、僕自身もVCの実務歴は「Upstart Ventures」を設立した時点で半年ほどでした。

また、佐俣アンリ氏が講演で仰っていたことも記憶に残っています。もう、やりたくなっちゃったらしょうがないと。投資家になるための経験を積むために、起業するんです、みたいなのはもったいないというか失礼だと。この言葉はかなり自分の後押しになりました。

「支援家」ではなく、「起業家」としてのベンチャーキャピタリスト

VCも早く打席に立つに越したことはない、ということですね。スタートアップ的な哲学を感じて興味深いです。学生起業家と同じように、学生ベンチャーキャピタリストも増えていくのでしょうか。

自分にとって、VCとしての独立と起業に境界線はなくて。「どうやったら勝てるのか」という戦略を描いてひたすらに実行していく点で、ファンドを興すのもサービスを作って起業するのも変わりません。だから、僕は自分のことを「VCという領域で起業したんだ」と思っています。

投資先のスタートアップに対しても「支援したい」というスタンスが一番強いというではないですね。僕自身も一人の起業家として、VCという領域で結果を出したいと思っていますから。僕は投資で挑戦するし、起業家は僕の投資を使って挑戦する。そこで一緒に成長していけたらいいなと。

投資先に支援家としてではなく、起業家として向き合っているのですね。マインドセットにも新しさを感じます。

僕、はじめは起業家に憧れていたんです。社会的なしがらみや制約を取り払い、追求したい課題に仲間を巻き込みながら突き進む姿に憧れて、起業家がロールモデルになる社会を作りたいと思っていました。周囲にタイミーの小川(嶺)やPoliPoliの伊藤(和真)など、起業家を目指す知人も多くて。僕自身が起業家になる選択肢もあったけれど、VCは起業家を増やせる点でレバレッジが効くし、同世代で目指す人が周囲にいなかったのも面白いと思い、笠井レオの影響もあってVCの道を選びました。

日本のVCは僕のような存在も含め、これから多様性を増していくフェーズだと考えています。独立系VCとして著名ないくつかのファンドも設立は2010年代が多かったりしますから、日本のVC業界はまだ歴史が浅くライフサイクルが回りきっていないのだと思います。新たな独立系VCがこれからもっと増えていくべきだし、様々な価値観のベンチャーキャピタリストが生まれていくのではないかと。

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日本のベンチャー投資、次のアジェンダは「価値の循環」

ベンチャーキャピタリストの立場から、日本のベンチャー投資に対する課題感をお聞かせください。

マッチングと、ビジネスモデルそれぞれの問題があります。マッチングに関して、VCファンド側の規模と起業家側が目指すイグジット・バリュー(売値)をいかにマッチさせるかが問われています。

例えば1億円規模のファンドで10億円のExitが成立すれば、10%のシェアを持っていた場合ファンドは全額を投資回収 (リクープ) できます。一方、50億〜100億円規模のファンドが10%のシェアで10億円のExitを達成しても、ファンドサイズに対して回収額は微々たるものです。すると、VC側と起業家側が想定しているイグジット・バリューが噛み合わずに投資が成立しないケースが生じてしまいます。こうしたジレンマを踏まえ、Upstart Venturesのように、シード期に比較的少額の投資を行うVCファンドが起業家から選ばれることもあります。

ビジネスモデルに関する課題についてもお聞かせください。

日本のベンチャー投資は、大学資金などの機関投資家-VCファンド-スタートアップの間で資金の循環がまだまだ未発達です。アメリカでは、この三者による循環モデルが美しく成立しています。具体的には以下の通りです。

(1)アルムナイなどから資金を集めて出来た大学基金や年金基金などの機関投資家が、継続的に高いリターンを出しているVCに対して大型出資を行う。
(2)機関投資家からVCファンドが出資金を受け取り、学生やアルムナイのスタートアップに投資を行う。
(3)VCファンドが投資した結果、スタートアップが成長してサービスと雇用を生み、若者にはロールモデルを還元する。資本的な価値はリターンとして公的基金に還元され、公共投資や学生への教育に投資が行われる。
このように、(1)→(2)→(3)→(1)……の流れを繰り返し、ベンチャー投資によって継続的に三者の価値が育まれていく仕組みができているのです。

ビッグ・ピクチャーなき日本のスタートアップ

スタートアップ・エコシステムについてお話が出たので、その文脈で伺います。上杉さんはUpstart Venturesの活動に加え、1998年世代の起業家コミュニティも運営しています。同世代の起業家たちと触れ合う中で、スタートアップ側の課題は何だと思いますか。

これも2点で、「横の繋がり」と「ビッグ・ピクチャーを描く起業家の存在」だと思っています。前者について、若手起業家は意外にも横の繋がりに飢えています。彼らはエンジェル投資家にアタックしたり、元々働いていた場所の縁から縦の繋がりは比較的得やすい一方、横の繋がりはもともとの知り合い同士に限られてしまいがちです。

「ビッグ・ピクチャーの存在」についてはいかがでしょうか。

創業初期からグローバル展開や圧倒的に難易度の高い課題の解決を前提にしている起業家が少ないと思っています。リソースや経験値の問題もあるかと思いますが、どうしても足元の数字を積み上げたり、1桁〜2桁億円規模のM&Aを見据えてしまう傾向が強いです。学生起業家の中にも、人生の諸先輩方のリソースを上手く使って巻き込みながら、ラクスル、ユーザベース、五常・アンド・カンパニーのような難易度が高い課題に挑戦したり、Born Globalに大きな未来図を描く人がもっと増えたらいいなと。そうすればよりハイレベルな競争環境が実現しますし、起業家からVCに対する期待感も大きくなるのではないかと思います。

日本のスタートアップがビッグ・ピクチャーを描きにくい背景には、何があるのでしょうか。

やはり、言語の壁が大きいのではないかと思います。学生起業家で英語を話せたり、海外経験のある方って目立っている人の中ではそこまで多くないのではないかと思います。最近インタビューさせていただいたGraffityの森本さんとかは例外ですが、例えば作ったばかりのサービスを日英同時にリリースするような起業家はどうしても少なかったりします。仮にグローバル展開を見据えていたとしても「まずは日本のマーケットを押さえて、成功したら他国に進出して……」と、ステップを設けている企業が多数派だと思います。

加えて、先輩起業家にBorn Globalなロールモデルが多いわけではないことも一因かもしれません。メルカリですらアメリカやイギリスで苦戦していることを考えると、「そもそも世界で戦えるのか」「どうやって戦えばいいのか」が分からない構造があると思いますね。難易度は高いものの、そのようなビッグピクチャーを描く人が増えたら良いと思いますし、挑戦の幅が広がれば良いかと。かくいう自分もこれからもっともっと海外を視野に入れなければと自戒も込めて考えています。

最年少VCが、起業の「最短距離」をハックする

こうした課題に対して、上杉さんはUpstart Venturesを通してどのように向き合っていくのでしょうか。シード期に比較的少額を投資する上杉さんのファンドは、起業家に短期的な満足感を与えてしまう側面もあると思うのですが。

確かに、僕の投資先には1桁億〜2桁億のExitを目指している起業家もいます。しかし、彼らが起業家として走り出したタイミングでUpstart Venturesが支援を行うことは、短期的にも中長期的にも意義が大きいと思っています。

詳しく教えてください。

短期的には、ビッグ・ピクチャーを描く若手起業家に対し、少なからずナレッジを提供できると思っています。まずナレッジに関して、僕がUpstart Venturesと兼任で所属しているSevenwoods Investmentは、米国にもネットワークがあります。僕が海外のファンドマネージャーの考え方や投資先の情報、彼らの視点や規模感の大きさ等を1次情報として吸収し、そこで得た知見を起業家に還元できます。この活動は、今後特にフォーカスしていきたいと思っています。また本質的には次のファイナンスを引っ張ってくることも自身の役目だと感じているので、今後ここにもフォーカスしていきたいと考えています。

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福岡のベンチャーキャピタル FVentures主催のスタートアップイベント登竜門の登壇の時の様子。多くの若手スタートアップが集うイベントを積極的に主催・登壇している。

短期的には、ポテンシャルの高い起業家が次のファイナンスに成功できるように支援したいと。中長期的にはいかがですか。

小規模なExitを再現性を持ちつつ繰り返し成功に導きながら、ビッグ・ピクチャーを描く企業として中長期的に成功率を高めるアプローチです。シリアルアントレプレナーの強さは、自明かと思いますが、その中でも僕が素晴らしいと感じたのはフリークアウト・ホールディングス創業者の本田謙さんとEast Venturesの松山太河さんのエピソードです。もともと高校で同級生だった2人だそうですが、本田は最初に創業した会社でEast Ventures (当時出資したのはクロノスファンド) の松山太河さんから出資を受けてM&Aし、その後に創業したフリークアウトで再びクロノスファンドから出資を受け、最終的に上場を果たしました。

このように、中長期的なアップサイドを見据え、2回目・3回目の起業時もUpstart Venturesがシードステージで出資していける信頼関係を作りたいと思っています。学生起業家はやはりシニア層の起業家と比較して経験が少ない分、成功確率を高めるためにチャレンジの回数を増やすのは1つ手だと思います。起業→Exitのスパンを短期的に回して成功率を高めつつ、ある一定のキャッシュとレピュテーションと、買収先での事業経験をレバレッジに、アップサイドをどんどん高めていく方法は1つの方法論としてはあるのではないかと思います。

初期段階から支援を行うことで、起業の成功を「最短距離」でハックできるよう後押ししているのですね。

そうですね。同じ思想のもとで今興味があるのは、事業の共通するオペレーションを横展開することです。例えば数年前のキュレーションメディアのように、一定の方法論が確立していて、かつ再現性の高い事業モデルを多領域に展開できたら面白そうだなと。1回目の起業を比較的若い人のリソースでも実行可能な領域を選択し、小さいながらも成功体験を積み上げるのは一種の方法論だと思います。

オペレーションのモデル化と横展開は、コンサルティングファームが企業変革を支援する際の定石です。これをVCファンドが、起業の初期フェーズで取り入れるのは面白いですね。

見据える未来図は「xTech」と「卒近代」の中にある

インタビューも終盤です。上杉さんが今、特に注目している分野はありますか。

「リアル×Tech」の領域です。数年前までのスタートアップはアプリやWeb上で完結するサービスが多かったと思いますが、最近はDtoCであったり、不動産×SaaSのように、テクノロジーがリアルの産業に染み出している分野に注目しています。

そうした分野に投資する際に焦点になるのは、テクノロジーと掛け合わせられる側の当事者をいかに巻き込めるかだと思います。その産業で問題意識を持って取り組んできた人や、業界のハブになっている人がフィーチャーされていくと思いますね。こうした人が起業したり、あるいはITのノウハウを持った人と共同創業するケースが増えていくんじゃないかと思います。

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近年の企業評価に欠かせないSDGsやソーシャルグッドに関しても伺います。ベンチャーキャピタリストとして、スタートアップの社会的貢献はどのように評価していますか。

まず現状として、ESG投資※にフォーカスしたVCが設立されるなど、ベンチャー投資の領域でもソーシャルグッドを評価する動きが始まっています。

※ESG投資:従来の財務情報だけでなく、ESG=環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別する投資のこと。

成果が出ている事業に付加価値を与える形でソーシャルグッドに取り組む……という形式であれば、投資は十分にワークすると感じています。しかしその逆、つまり時価総額やイグジット・バリューに直接的には影響しないけれど、本質的に社会的価値のある取り組みをどう評価するか? というのは1つのアジェンダです。事業自体のマネタイズも、バリュエーションへの反映も難しいところです。

とはいえ、現状のスキームは、あくまで今ある資本主義的な価値観の延長線にすぎないとも思っています。バリエーションやExit、営業利益に対するマルチプルといった価値基準では評価できない、本質的に価値のある領域を正当に評価するための価値基準を新しく設けていくべきかもしれません。卒近代の試みは今後注目していきたいと思っています。例えば、まだ成功事例がそこまであるわけではないものの、評価経済はその一例だと思います。

IT・スタートアップの世界だけにいると、価値観が凝り固まってしまいます。自分が早くからこの領域に参入したからこそ、自分の視野をより広げていくことで、「こういう領域って参入できそうだよね」「注目されてないけどこういうことできそうだよね」「こういう形で卒近代的な実践もできそうだよね」と今後に繋がっていくこともあると思っていて。まだ勉強し始めたところですが、新しい価値基準・投資の新しい枠組みは追い求めていきたいですね。

インタビュー・テキスト:中山明子 | 写真:西田優太 | 編集:脇慶太朗

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