ISSUE04

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#politics

2019/7/14

ようこそ、新しい民主主義へ。
28歳弁護士がつくる、新しくて、公平な、
データプラットフォームの未来。

弁護士/NPO法人Mielka代表・徐東輝

2019年7月、令和最初の参議院選挙が幕を開けた。投開票まで1週間を切り、選挙戦も佳境を迎える今、とある選挙情報サイトがインターネット上で話題を呼んでいる。

サイトの名はJAPAN CHOICE。直感的なデザインで投票先選びや与党の政策評価に必要なデータが閲覧できる画期的なサービスだ。複雑な行政データを徹底的に可視化する姿勢は、大ベストセラーとなった書籍『FACTFULLNESS』を想起させる。運営元は大手メディアや企業ではなく、個人集団のNPOだというから驚きだ。

――政治や選挙そのものに強く興味があるわけではありません。

――でも、選挙のたびに皆が「どこに投票したらいいか分からないから、面倒くさい」という社会は不健全だと思います。

屈託のない笑顔で胸中を明かすのはサイトの仕掛け人・徐東輝(そぉ とんふぃ)だ。「民主主義のインフラを作りたい」と語る28歳の若き弁護士は、民主主義の未来をどのように見据えているのか。その鍵を握る「JAPAN CHOICE」の全貌とともに聞いた。

僕らは、テクノロジーで民主主義をアップデートする

東輝さんは弁護士として働くかたわら、京都大学大学院在籍中に設立したNPO法人「Mielka」を通じて若者と政治をつなぐ活動に携わっています。今回リリースした選挙情報サイト「JAPAN CHOICE」も、その事業の一環です。どのような経緯でサイトの立ち上げに至ったのでしょうか。

僕がNPOを設立した2013年〜2014年頃、最大の課題としてあがっていたのは若者の投票率の低さでした。そこで当初は同世代の投票率を向上するために活動していましたが、時代の変化とともに、やみくもに投票率を上げることの意義に疑問を持つようになりました。

きっかけはBrexitとアメリカ大統領選挙です。投票率を上げるより前に、政治や民主主義を冷静に捉えられるような情報のプラットフォームを整える必要性を感じたのです。そこで有権者の合理的な投票をサポートしたいと思い、「JAPAN CHOICE」の構想に至りました。

徐東輝 | TONGHWI SOH
法律事務所ZeLo/株式会社LegalForce NPO法人Mielka代表理事 京都大学法科大学院卒 虎党 World Economic Forum Global Shaper 「法・政治・テクノロジー」が現在の3軸 「Technology, Data, Design for Civic Virtue」というアーキテクチャ設計が直近のテーマ  『在日韓国人京大生が教える、憲法の視点からの日韓問題』著

イギリスのEU離脱投票とアメリカ大統領選挙では、出所不明のフェイクニュースがSNSを通じて拡散されたことが大きな問題になりました。また、選挙を通じて国内の分断が可視化されたことも象徴的な出来事です。

これらの選挙でキーワードとなった「フェイクニュース」「社会的分断」「ポピュリズム」という概念は、決して真新しいものではありません。昔から言葉を変えてずっと議論されてきたことです。それがなぜ表に出てきたかというと、テクノロジーの進化によって急速に可視化が行われた結果だと思います。民主主義が抱えていたリスクが一気に爆発したイメージです。

今は現在の形の、性別や身分にかかわらず1人1票を持って投票できる民主主義を終わりにするのか、一歩先に進めるのかの岐路にあると感じています。僕はテクノロジーが民主主義を終焉させる立役者になりつつあると感じています。

テクノロジーが民主主義を殺すかもしれない、と。

かつてはテクノロジーに対して誰もが明るい未来を描いていたはずですよね。声なきものに声を与えたのもテクノロジーなのだから、民主主義は、もっと良くなるはずだったんですよ。僕たちはテクノロジーやデザインという武器を使って情報のプラットフォームを作り、民主主義をアップデートしたいと思っています。「民主主義が機能するインフラ」を実現したいんです。

可視化したのは、公約・予算・世論

「JAPAN CHOICE」が初めて公開されたのは2017年の衆院選です。当時は候補者や政策を手軽に比較できることが話題となり、約30万人が利用しました。今回は参院選を控え、2年越しの再リリースとなります。

2017年は突然の解散総選挙だったこともあり、とにかく必要最低限のコンテンツを揃えることに努めました。今回は準備期間があったので、他国の選挙報道の事例も含め、改めて必要な機能を洗い出しました。そして新たに設けたのが、「公約の実現度」「国家予算の使い道」「世論の動き」の3つを可視化するコンテンツです。

特に「公約の実現度」、つまり「この政党・政権は、前の選挙で約束したことを守っているのか?」を絶対に可視化しないといけないと思い、真っ先につくることを決めました。それ以外の「国家予算の使い道」「世論の動き」についても、データを直感的に読み取れるデザインにしています。欧米には先駆者的なサービスが出始めている一方、日本では大手メディアを含め、こうした中立なコンテンツはほとんど例がありません。

日本では、「JAPAN CHOICE」のようなサービスは生まれてこなかったと。その背景はどこにあるのですか。

理由は2つあると思います。1つは、政府側の情報が「機械が判読可能な形で」公開されていません。例えウェブ上に情報があっても、紙面をスキャンしたPDFデータなど、機械的に読み取れるファイル形式で情報が公開されておらず、データを整えるためにかかるコストが膨大です。

もう1つは、本来こうした役割を果たすべきメディア側の手が回っていないことです。上記のデータ収集にかかるコストに加え、選挙の時しかサービスを利用しない層に向けたコンテンツを無料で提供するのはビジネス上どうしても難しい。しかし、メディアには一次情報を提供するという代えがたい役割があります。僕たちは、大手メディアでは実現できない情報プラットフォームを作ることで分担ができていると思います。

加えて、既存のマスメディアは力を失いつつあります。メディアのイデオロギーによって人々の思想が分断されつつある今、信じられる情報源を持たない人々は「自分の身の回りにある”信じられそうなこと”を信じるしかない」状況に陥っています。Brexitやアメリカ大統領選挙では、こうした民衆の不安にフェイクニュースが入り込みました。日本の状況は欧米ほどではありませんが、マスメディアの声は確実に届きにくく、信用されなくなってきています。そんな中で、政治的・企業的な支援をどこからも受けず、中立を貫く僕らが発信する意味は大きいと思います。

「触れない・言わない」中立に意味はない

コンテンツの分かりやすさやプラットフォームとしての影響力を追求する中で、「JAPAN CHOICE」もマスメディアのようにイデオロギーが介在するおそれはないのでしょうか。

コンテンツには細心の注意を払っています。サイト内の記載には必ず出典を明記し、政策比較は全ての政党の情報を掲載しています。記事についてもチームで何重ものレビューを行い、中立性を担保しています。また、組織としても「政党の党員にならない」「選挙活動はしない」といったガイドラインを徹底しています。僕は、中立性に対する批判を恐れるあまり、具体的なことに「触れない・言わない」報道のあり方を疑問視しています。全ての政策や思想を平等に扱い、全員の意見を認めて明らかにすることこそが一番の中立・公平ではないでしょうか。

ここまで中立性を保てるのはどうしてですか。

何よりも、外部の目が最大の抑止力だと思います。僕たちは中立な立場であることを宣言し、皆さんから活動を監視いただいています。一度たりとも不信感を与えてしまえば、僕たちは二度と中立な組織として信頼を得ることはできませんから。NPOを設立して以来、一度も炎上していないのは中立を保っている自信でもあります。また、僕らがニュートラルなチームであることも大きな要員だと思います。社会人10数名のメンバーのほとんどはデザイナーとエンジニアで、政治の話を熱く語るメンバーはほとんどいません。ただ皆が、選挙を面倒だと思う現状を変えたいと思っています。

かくいう僕も、実は政治にそれほど深く興味をもっているわけではありません。政治家になろうと思ったこともないです。でも、選挙のたびに皆が「どこに投票したらいいか分からないから、面倒くさい」という社会は不健全だと思います。そういう若者たちの意識を根底から変えて、幸福度を高めることに興味があるんです。

それでも、日本の民主主義には希望がある

ここまでのお話は、民主主義を前提に話をしてきました。しかし、近年は「民主主義を終わりにしよう」という論調も聞かれます。東輝さんは民主主義から離脱すべきだと考えたことはなかったのですか?

正直に言うと、一時期は「頭の良い人たちだけで(政治を)やっちゃえばいいじゃん」って思っていました。でも、人類の歴史を振り返ると、専制や寡頭政治は安定しないんですよね。1世代は安定しますが、世代が変わると怒った民衆が革命を起こすのが世の常です。冒頭の話題にもつながりますが、だからこそ僕は、民主主義という枠組みは保った上で、資本主義のように時代に応じてアップデートしていくべきだと思っています。現時点でしなければならないことは、有権者がちゃんとイニシアチブをとって民主主義を運用できるようにすることなんです。日本であれば、このイニシアチブが実現可能だと思っています。

興味深いです。それはなぜでしょうか。

国内で分断の溝が深まりにくい構造があるためです。具体的には(1)SNS間の分断が他国に比べて比較的に小さい(2)国民の識字率が高く算数の基礎力がある(3)全国メディアがある(4)社会的意思決定に影響を与える移民が少ない ことの4つです。先述の通り、日本でも少しずつ分断は始まっていますが、諸外国ほど急激には進行しないでしょうし、政治の力で食い止めることもできると思っています。だからこそ、僕は日本から「民主主義のインフラ」づくりに挑戦してみたいです。

「JAPAN CHOICE」は、これから日本の民主主義においてどんな役割を果たしていくのでしょうか。

将来的に、「JAPAN CHOICE」は数百万人・数千万人が利用するプラットフォームになりたいと思っています。フェイクニュースに操られる選挙は決して対岸の火事ではありません。現に今も日本国内でフェイクニュースは飛び交っていて、今回の選挙に第三国が介入してくる可能性も十分にあります。

まず僕らが情報プラットフォームとして中立な情報を提供する。そして、有権者が自分の意思で民主主義をコントロールできるようにしていきたいと思っています。

取材・構成:中山明子/文:山本久留美 | 撮影:中井健斗 | 編集:脇慶太朗

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