ISSUE07

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#food

2019/8/13

自然とくらし、地球をやさしく抱きしめる。
篠原祐太が教えてくれる、昆虫食の未来。

地球少年/昆虫食伝道師・篠原祐太

約8,637億円。
2030年までに、昆虫食の経済効果はここまで成長する可能性を秘めていると言われている。これは全世界の大きなムーブメントの発端である米国の大麻合法化の経済効果に匹敵し、昆虫食という文化が浸透していない日本人の暮らしの中では到底イメージできない数字だろう。
国連の専門機関も、昆虫食は地球で起こりうる食糧難や環境問題の一助となるという報告書を発表しメディアでも多数取り上げられている。

昆虫食という言葉が羽音をたてて世界中に飛び交っている中、地球少年・篠原祐太は他者とは違ったアプローチとビジョンで昆虫食を広め、ある種日本を啓蒙している。
幼い頃から本能的に昆虫を食べてきたという彼に、昆虫食の未来、また彼がしかける新しい「昆虫食レストラン」の展望について語ってもらった。

小さな地球が僕の意識を変えた

篠原さんは「地球少年」や「昆虫食伝道師」など、少し耳慣れない肩書きで活動していますが、具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?

昔から昆虫に限らず、鳥も野草も山菜も含めて、自然に存在している全てを比べられない程、愛していました。また大人になっても、変わらず自然や地球と関わりながら人生を送っていきたいと思っていました。
僕自身は野外の昆虫をとって様々な食べ方で食べてみることが多いのですが、この昆虫食をより世の中に広めるために、ワークショップや商品の開発を通して、昆虫を食べることがどれだけ魅力的なのかを伝える活動をしています。

篠原祐太|YUTA SHINOHARA
1994年生まれ。東京都出身。
「地球少年」「昆虫食伝道師」という肩書きのもと、ワークショップや商品開発、有名ラーメン店とのコラボレーションなど、昆虫食の魅力や可能性を伝える活動を行っている。
昆虫を1つの食材として捉え、昆虫の可能性を探求し続けている。
現在、地球の恵みを用いて新たな食体験を提供する、「地球食レストラン」ANTCICADAのオープンを控える。

なぜ自然全体が好きという中で昆虫を?

自分が昆虫食に対して感じている魅力と、世の中が抱いているイメージがわかりやすくかけ離れていると思ったからです。昆虫は、テレビでも罰ゲームで食べられていたりとイメージがよくありません。イメージとして嫌われてしまうことは悲しいことですし、昆虫に関してはそのイメージを超えるような体験が少なすぎると感じています。

幼い頃から昆虫を食べていたとか?

そうですね。4歳から食べていました。特に大きなきっかけはなかったんですけど、本能的に食べてましたね。体内に取り込みたいくらい昆虫が大好きで。
昆虫を食べる大きなきっかけはありませんでしたが、幼稚園児の頃に地球という存在を意識する体験はありました。

地球を意識する。それはどういった経験だったのでしょうか?

昔からいろんな生き物を飼っていて、家がミニ動物園状態で。魚も飼っていたんですが、その時、水槽にエアレーションをつけなくても生き続けたことがありました。なんで成立するかと言うと、その水槽の中に水草があり、魚がいて、エビがいて、タニシがいて。それぞれの食べるものと排泄するものの均衡がとれていて、空気を供給しなくても餌をあげなくても生活ができる状態だったんです。
それまでは勝手に生き物は「育てる」ものだと思っていました。育てる・育てられるという関係ではなく、それぞれが良いバランス関係になった時にこんなにも綺麗に成立するものかと子どもながらに感動しました。僕が見たこの光景って、大きく考えた時の地球と一緒で、自分も誰かに生かされていて、誰かを生かしている。自分の置かれているこの環境で当たり前に生きているのがすごいことなんだなと。この体験は自分の中ではかなり衝撃的なものでした。

昆虫を特別視しない感覚がチームを作った

篠原さんは現在、地球食レストランANTCICADA(アントシカダ)を準備中ですが、どのような経緯でスタートしたのでしょうか?

これまでコオロギラーメンなど、自分のできる範囲の中で様々な角度から昆虫食の魅力を発信してきました。自分もラーメン店で修行をしたことなどはありましたが、なかなか一人でやっていくことは難しいなと思っていて。そう感じるなかで社会人となって、周りが就職や起業をしていくのを見ていると自分も次のステージに進まなきゃいけないなと感じていました。

特に2年前くらいから、昆虫食を世の中へ伝えるためにはメディア露出や単発イベントなどのスポットのみの活動ではなく、継続的なアプローチが必要だと考えていました。まず、自分の周りの多方面で活躍している同世代を巻き込んで何かやろうと考えていましたが、昆虫に興味があって面白いと感じている人は多くいる一方で、自分と抱いてる面白さの種類が違うなと思っていました。おそらく多くの人は昆虫に対して”非日常的な面白さ”を感じていて、僕はあくまで”日常の一部”として捉えているので、自分と同じ想いもっている人は少ない印象でした。
そんな中で僕がやっていた昆虫食のワークショップに来てくれた、料理人の関根賢人に出会いました。彼は、僕が昆虫に感じている「面白さ」を共有できる数少ない友人になりました。会う回数が段々と増えていく中で、1年前くらいに何か昆虫食の領域で一緒にやろうと2人のプロジェクトがスタートしました。はじめからレストランをという感じではなく、半年間くらいは2人で昆虫食の試作開発や販売などを中心に行っていました。

そこからメンバーが徐々に増えていったんでしょうか?

そうですね。商品開発・ドリンク担当の山口歩夢は友達からの紹介で出会いました。アオイエというシェアハウスに住んでいた時の友人が、僕と波長が合うんじゃないかと紹介してくれたのがきっかけです。山口は初めて会った時からエンジン全開で、5時間くらい味覚と酒のジンの話をされました(笑)。

彼は東京農業大学の大学院で発酵調味料や味覚の研究をしていて、自分が足りないと感じているアカデミックな部分や、物事を研究的に掘り下げていく姿勢に魅力を感じました。この2人は自分にはない切り口をもっていて、昆虫に対して特別視しないという想いが同じです。このチームから輪が広がっていき、昔から応援してくれている方々がサポートに入ってくれたりして、昆虫食レストラン「ANTCICADA」のプロジェクトが形成されていきました。

ANTCICADAでは何を伝えていきたいと考えていますか?

昆虫食の楽しさをもっと広めていきたいと考えています。自分にとって昆虫食は究極の娯楽であり、生活の一部です。僕にとってはコンビニで何かを買って食べるより、昆虫を食べることの方が何を食べているのかをはっきりと理解することができますし、安心です。だって、コンビニの弁当1つとっても正直何がはいっているかわからないですし。

またANTCICADAでの食体験を提供する上で、人間の感覚的な部分は追求していきたいと思っています。日常なのか非日常なのかという環境下で人間が何を感じるかというのは良い揺らぎだと思っていて、その感覚の揺らぎみたいな部分は意識していきたいです。ゆくゆくは魚釣りとか家庭菜園とかそういった1つのジャンルとして昆虫食を確立していきたいですね。

ポジティブな起点から昆虫食を伝えていきたい

昆虫食というと、2013年にFAO(国際連合食糧農業機関)が発表した報告書※が印象的な方も多いと思いますが、この報告書の存在は篠原さんにとって大きいものだったのでしょうか?

そうですね。もともと僕は20歳手前まで昆虫を食べていることを周りに隠していました。周囲に昆虫を食べる人がいなかったこともあり、虫を食べることがよくないという感覚もあったんだと思います。そんな中でFAOが出した、昆虫食が地球環境への有効なアプローチとなる可能性を真面目に提案した報告書はメディアにも取り上げられ、自分にとっては最強の後ろ盾を得たなという気持ちになりました。僕個人の変わった趣味ではなく、1つの可能性のあるジャンルとして注目されていくのは、自分の背中を押してくれました。

※FAO(国際連合食糧農業機関)が2013年5月に発表した、食品及び飼料における昆虫類の役割に注目する報告書。昆虫食の現状及び歴史、地球で起こりうる食糧難や環境問題に対しての昆虫食の可能性が示唆されている。

そういったFAOの報告書で言及されている食糧難や環境問題に対して、篠原さんはどういう想いがありますか?

正直、僕自身、食糧難や環境問題に対して明確な実感を持っているわけではありません。普通に日本で暮らしている多くの若者がそうだと思いますが…なんとなくやばいんだろうなという感じです。ただ、どう考えても世界の人口は増えて食料は足りなくなり、環境的にも豊かになっているとは言えません。そこに対しては、それぞれがそれなりのリアリティを持って取り組まないといけないと思っています。

1人1人が大きいことをしなくてもいいですが、意識しないといけないという空気感はまだまだ薄いように思います。僕としてはこの問題を意識させるための1つのアプローチとしても昆虫食という切り口を広げていければ良いなと感じています。

食事は、毎日誰でもするわけで。この当たり前を各々に、意識させるような空気を作っていく必要があるってことですよね。

わかりやすく肌で感じたのは、昨年海外でコオロギラーメンを販売した時です。その時は、フィンランドとエストニアでコオロギラーメンを販売しましたが、来てくれた現地の方々はそこから環境問題に興味をもってくれました。日本でも販売しましたが、まだまだここへの反応は薄い。なんとなく面白いことをやっているで終わってしまっています。

また、海外の方は逆に環境問題という文脈から昆虫食に興味を持つ人が多い。課題解決の可能性のある方法として注目している人も一定数いるという印象です。

一方、日本では昆虫食がコンテンツに寄りすぎています。ゲテモノ料理屋さんが注目を浴びるように、料理においては特にコンテンツ化が顕著だと感じています。個人的には場当たり的な話題性だけでなく、長い目でみて今やるべきことを考えていかないと怖いなと感じています。

企業という単位でもこの差はあると思っていて、なぜ海外の昆虫ファームが進んでいるのかと言うと、昆虫食がどうなるか不確かだけど、その不確かなものに対して真剣に向き合っていく姿勢が強い。だからこそ巨額の投資をして、専用の設備をつくっていけるんだと思います。

日本国内で、昆虫食をただのコンテンツだけで終わらせず、意識にまで踏み込んだアプローチをしていくにはどうしていくべきでしょうか?

個人的には頭ごなしにというのは好きではないので、シンプルに”昆虫=美味しいもの”という切り口から環境問題に対しての意識が広がるきっかけになれば良いと思っています。正論を正論として伝えるのはなかなか響かない時もあると思いますし、ベタに課題から解決方法を提示するのではなく、全く異なった角度からの昆虫食というアプローチを突き詰めていきたいと思っています。

日本においては、コンテンツとしての興味があるなら割り切ってその中身を詰めていきたい。その先に実はそれが環境問題に繋がっているというアプローチをとりたいと感じています。それ以外の有効なアプローチも考えていく必要はありますが、最終的には日本とか海外とかは関係なく昆虫食を普遍的な魅力のあるものにしていきたいですね。

世の中では昆虫食=課題解決のツールという見られ方が浸透しています。

FAOの報告書が多くのメディアで取り上げられたことで、昆虫食の認知が高まったことは非常に嬉しく思います。しかし一方で、他に食べるものがないから昆虫を食べざるを得ないという、ネガティブな現状起点での入り方が多くなることに対しては寂しさを感じていました。色々な昆虫を食べてきて、純粋な食材としての価値を感じていた自分にとっては昆虫を食べることはあくまで日常であり、食を楽しむことの1つです。美味しいと思うから食材として広げていきたい。食わざるを得ない状況に陥るから、しょうがなく虫を食べようというスタンスは少しズレを感じる部分でした。

今の世界的な見られ方だと、課題解決のためのスーパーフードに振れていると感じています。スーパーフードというあり方も悪くはないですが、僕が思う昆虫の実態とかけ離れてしまいます。背伸びをしないで、等身大で昆虫を食べることの面白さ、楽しさを伝えてきたい。そういうアプローチをしていかないと、昆虫という存在自体が空虚になっていく気がしています。

「自分と料理」の向き合い方を変えていきたい

ANTCICADAで新たな食体験を提供していく上で、昆虫だけでなく大枠の”食”という部分についてはいかがでしょうか?

社会での食のあり方や、食べることへの姿勢には不安を感じる部分も少なくないです。もしかしたら昆虫食以上に危機感を感じているかもしれません。

僕がこれまで昆虫食を広める活動していく中でも、「食は作業ではない、冒険だ。」という言葉を掲げています。今の世の中の人は、食をただの習慣や作業として捉えている人が多いように感じています。

中学生の頃から感じていましたが、昼の12時や夕方の18時などの決まった時間に食事を作業的に行い、食事を楽しむ余裕がないことも少なくないと思います。日常でありすぎるがために、習慣としての消費されてしまうのも寂しいこと。個人的には、毎日できる限り色んなものを食べたいし、もっと1回1回の食事を最大限に楽しんでいきたいと思っています。

また、人々の行動がいいねからの逆算的にSNSに依存して行く中で、個人の「おいしい」という感覚がグルメサイトなどの評価に影響を受けすぎているとも感じています。グルメサイトでの評価が高いから、なんとなく足を運んで、なんとなく美味しいと言っておく。スマートフォンに映るどこかの誰かが言っている言葉を信じ切って、自分の感覚よりも他人の評価が軸となってしまっている。この状態は自分自身に対しても、自分の感覚に対しても失礼だと思うし、かなりやばい状況だと思っています。

自分が美味しいとか楽しいとか思ったらそれがすべてだと思っています。情報が見れすぎてしまうがために、自分の感覚が段々と死んでしまっていく。食事は「自分と料理」という対面の関係であるはずなのに、「自分と他者」という横の関係が強くなってしまっています。その横の関係性の中では、目の前の料理の存在は薄れていく。この状況はもっと危機感をもたなければいけないし、変えていかなければいけないと思っています。

これは生き方すべてに通じることだと思いますが、自分の感覚とか感情を素直に信じられるかが食という行為においても大事なことだ思っています。

その課題に対してもANTCICADAを通じて、変えていける自信がありますか?

可能だと思っています。昆虫食のイメージは良いものではありませんが、良くないからこそ「美味しい」と感じることでそのギャップが1つの体験になると思っています。自分がANTCICADAで提供する料理が本当に美味しければ、「自分と料理」という対面の関係性を実現できるでしょう。

また、ANTCICADAでは、昆虫食や新しい食体験を伝えると共に、飲食店の在り方までも踏み込んでいきたいと考えています。飲食店を運営するうえで、もちろんカスタマーファーストな考え方も大事ですが、お客さんに迎合しすぎてレストランのアイデンティティを見失っているのは本末転倒です。

”食”は受け手だけではなく、作り手としても自由であるべきだと思います。お客さんに媚びを売りすぎず、もっと多様なスタンスのお店が増えて欲しい。今の状況だとお客さんの声を気にしすぎて、料理を通してやれることも狭くなっていきます。

こういった状況に対しても、ANTCICADAなりのレストランとしてのスタンスを自分たちなりにこだわって発信していきたい。受け手も作り手も、お互いが自分の感情に素直になれるような場所や価値を提供していきたいです。

店舗は発信拠点として構えますが、店舗運営だけをやりたいわけではありません。昆虫食をはじめとして、色々と伝えてたいことや作りたいものがある中で、拠点があることで動きを加速させていくことができると思っています。

スポットの活動から継続的な活動へと変わっていく中で、昆虫食以外にもこの先踏み込んでいきたい分野はありますか?

ANTCICADAでは昆虫食を前面に押し出していますが、本当は「地球食レストラン」を実現したいです。昆虫に限らず、地球のあらゆる恵みを色眼鏡をかけずに愛していき、魅力を感じるものを自分たちなりに深く掘り下げてお客さんに対して提案していきたいと思っています。その対象はあまねく地球に広がるすべての生き物です。

あくまで見据えていきたいのは地球全体です。地球上で食べられている生物は全体の0.02%。自分が知らない世界が広がっていて、その未知の世界まで自分の足で踏み込んでいきたいと思っています。こういう話をしていますが、僕自身も地球で暮らし、まだまだ地球について勉強中の身です。だからこそ、皆さんと一緒になって自分が暮らす地球のことを知りたいし、考えていきたい。

今は絵空事かも知れませんが、コオロギラーメンやタガメジンという目下のやりたいことは1つ1つ突き詰めていきながらも、自分たちの活動を地球というレイヤーにまで拡げていき、世の中全体で自然や地球のことを考えていけたらとても幸せなことだと思ってます。今後も限界を決めずに地球という存在を自分なりに掘り下げていこうと思います。

インタビュー・テキスト・編集:梅野周 | 撮影:脇慶太朗

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